タベアルキスト・マッキー牧元の高知満腹日記「日本一幸福にさせてくれる魚屋さん」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「お料理上手ですね」。

ご主人の背景をよく知らずに、大変失礼なことを言ってしまった。

ここは高知中央部にあり、土佐和紙で知られる「いの町」である。

車が頻繁に行き来する通りに面して魚屋がある。

その店先で、週末だけ料理を出すという噂を聞いて、やってきた。

店は、どこにでもあるような魚屋で、ガラスケースに収まった魚が並べられている。

ガラスケース前の狭いスペースに、粗末なテーブルが置かれていた。

立ち食いである。

「ははあ。ここで魚を決めて、刺身や煮つけにしてもらうんだな」。

魚屋が定食屋を併設している。

立ち食いということをのぞけば、高知では割とあるスタイルである。

「魚を選んでもらってもいいですし、定食もあります」。

「定食はどんなのですか?」

「はい5品ほどついて、あとは吸い物とご飯で、八百円です」

「では定食を」。

「はい、かしこまりました」。

すると、ご主人は奥から黒塗りのお膳を取り出して、テーブルの上に置いた。

立ち食いなのに、ただならぬ雰囲気である。

最初に出されたのは、「ウルメイワシのおからずし」である。

藍色のガラスの器に、酢締めされたウルメイワシがおからずしを抱きながら、可愛く鎮座している。

緑色のもみじ葉が涼を呼び、ミョウガの酢漬けが彩りを膨らます。

その一品の、盛り付けと姿を見ただけで、こりゃあ只者ではないと思った。

「ウルメイワシのおからずし」は、イワシの酸味とうま味が、甘酢で味付けて二度濾したおからんおきめ細やかさと、共鳴する。

塩麹につけた鮎を、酢洗いし、鮎の淡い旨味が舌を包む、「鮎の寿司」。

出汁の塩梅が美しい、「冷やし梅茶碗蒸し」。

そのほか、「赤魚のすまし汁」、「りゅうきゅうとウルメイワシの酢の物」、「とうもろこしのかき揚げ」、「まぐろ漬けと葉わさびのたたき」、「塩麹漬けウルメイワシの焼き物」、「だし巻き卵」、「たけのことうすい豆の煮物」など、出てくる料理がすべて、気品がある。

調味のあたりがピタリと決まって、食材を見事に生かしている。

どれも一捻り二捻りの独創がありながら、やりすぎていない。

失礼ながら、料理が魚屋レベルではない。

器や盛り付けも、筋が通って、美しい。

感嘆して、つい先ほどの失礼な言葉を投げてしまった。

最後は「水ものです」と、黒塗り重に氷を詰めて果物が出された。

感服である。

「魚兼」の「うまい」の秘密

魚屋「魚兼」は、創業から百余年たつ。

三代目となるご主人岡崎裕也氏は、京都の一流割烹「あと村」(今は閉店)で何年も働いたのち、大好きな魚に常に触れたいと、家業の魚屋を継いだのだという。

その話を聞いて、料理の腕に合点がいった。

そう言えば、先にいただいた「とうもろこしのかき揚げ」は、「あと村」の名物料理の一つだった。

「お客さんとやりとりしながら、今日一番の魚をさばいて刺身にし、買っていただく。そんな昔ながらの魚屋の仕事が好きなんです」と、岡村さんは目を輝かせた。

魚に熟知した魚屋さんが、京都仕込みの技で魚を生かし、提供してくれる。

こんな素晴らしい業態は、ないだろう。

「京都で磨いた腕で魚料理を作って出し、魚屋以上の魚屋なりたいと思ってます」。

奥さんと二人、日本のどこにもない、素敵な魚屋さんになってください。

そして僕らを、幸福にさせてください。

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