タベアルキスト マッキー牧元の高知満腹日記「高知の濃ゆい焼きそばに恋をしたの巻〜第二弾~」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなすタベアルキストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

「おお。焼きそばの予約注文が、ずいぶんと入ってるんだなあ」。

赤岡の「いづみや食堂」に入った瞬間に、そう思った。

なにしろ、1メートル半はあろうかと思われる横長の鉄板一面に、焼きそば麺が広げられ、じわじわと焼かれているのである。

おそらくその量は、30人前はあるだろう。

外の看板には、「愛されつづける味 とんぺい焼き 焼きそば いづみ屋」と書かれ、おばちゃんと丸坊主のおっちゃんの絵が描かれている。

すでに店内には、常連らしきおじさんが二人鉄板前に座り、焼きそばを食べるわけでもなく、酒を飲みながら世間話をしている。

「焼きそばください」。

「一人前?」と、おばちゃんが聞いて、作り始めた。

鉄板に広げた麺を脇に寄せてスペースを作ると、具材を炒め始める。

まずは、豚肉とイカゲソ、かまぼことキャベツである。

まあかまぼこというのが珍しいが、ここまではフツーの焼きそばの手順である。

次に、奥から何かが入った袋を取り出し、袋の中に手を突っ込んで取り出すと、炒めた具材の上にたっぷりかけた。

ベビースターラーメンか?

5〜7センチほどと短く、細く、茶色く縮れた、固い麺である。

うむ。どう見ても、ベビースターラーメンにしか見えない。

具材と合わせると、塩胡椒、味の素、だしの素をふりかけ、さらに炒めた後、ケチャップ!をかける。

続いてソースをかける。

完成である。ベビースターラーメン以外は入れられてない。

脇で大量に炒めている麺は、使わないのか?

ますます謎は深まるばかりである。

食べれば、ベビースターラーメンのような麺は、ゴムの切れ端のようであるが、具材の水分やソース、ケチャップを吸って、少しふやけている。

焼きそばというより、おやつや酒の肴にもよい。

主食かおやつの中間で、妙にあとを引く。

「ずずっ」と、焼きそばをすする感覚は一切ないが、歯の間でモチッと弾む短い麺が愛おしい。

麺の秘密を聞けば、おばちゃんはことなげに語る。

「ゆがいた麺を、鉄板の上で1時間半から2時間炒めるがよ。時々焦げんように返しながらね。こんな手間かけゆうところは、他にはないで。この鉄板の上の麺?ああこいつらはまだ20分くらい。これから1時間は炒めないかん」。

つまり長時間炒めて、徹底的に水分を抜き、それを再び炒めることによってソースやケチャップの味を吸わせるのである。

これぞ“焼き”そばではないか。

高知赤岡で昭和24年に創業し、先代が考えたやり方を70年、守っているという。

「先代の時はもっと固かったけんどね。そのうち客の好みに合わせて調整して、今の姿になったが」。

かつて赤岡は、もっと繁栄していた。

今はなき映画館も、松竹と日活の二軒あり、税務署や裁判所もあったという。

現在は駐車場となっている「いづみ屋」の隣はパチンコ屋で、「いづみ屋」は、景品引換所もかねていたという。

きっと、パチンコで負けた人の心を和ませ、勝った人の心を弾ませたのだろう。

「いづみ屋」の個性的な焼きそばには、永年庶民と寄り添ってきたものだけが持つ、温かさがあった。

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