高知家の◯◯
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「高知に魅了された和食と中華の二刀流変態シェフ」美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

この情報は2021年3月28日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は和食と中華の二刀流でマッキー牧元さん最高の称号「変態シェフ」を贈られた「ダヨシ・スシバー」をご紹介します。

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変。明らかに変である。

高知には珍しい、いや日本全土で探しても珍しい、ロール寿司の店があると聞いてやってきた。

ところが店に入って、メニューを開いた途端に目が点となった。

いきなり四川水餃子の写真である。

ロール寿司とは無縁の、料理としては遠くかけ離れた水餃子が、いかにも辛そうな赤い油にまみれている写真が飛び込んできた。

メニューをめくるたびに、謎は深まった。

次にフグのブイヤベースときて、坦々麺が現れ、麻婆豆腐がやってきて、ようやくロール寿司が現れた。

一体どういうことか?

これは一度店主に話を聞いてから、頼まなくてはいけない。

そこで、なぜか黄色い聴診器を首から下げた店主、唐津義幸さんに理由をたずねた。

唐津さんは、東京の四川飯店で15年間修行し、それからドイツで中国料理店を開かないかという話が来て、20年間フランクフルトで店をやり、それから高知に移り住み、店を開いたのだという。

四川飯店で師事したのは、なんと陳健民氏である。

日本に麻婆豆腐やエビチリ、坦々麺などを紹介した、日本中国料理界の伝説的人物ではないか。

あの鉄人シェフ陳建一氏のお父さんではないか。

なぜドイツだったのかというと、元々がバイク好きで9回ワールドチャンピオンとなり、史上最強のライダーと呼ばれるバレンティーノ・ロッシの大ファンで、ヨーロッパに行けば実際のレースも見ることができ、追っかけができるという理由だったという。

聴診器は、ロッシが「ドクター」と呼ばれていたので、その敬意でつけているということである。

愛すべき変態の匂いがプンプン漂ってきている。

四川料理の秘密は解けた。

しかしロール寿司の方は解けていない。

聞けば、ドイツで中国料理店を開いたはいいが、ドイツ人は焼きそばと春巻くらいしか食べてくれず、商売にならない。

街を歩いていたらロール寿司の店が流行っているのを見て、1から学び、ロール寿司の店にしたら、繁盛したのだという。

さらに高知で店を開いたきっかけを聞くと、日本に帰ってくるなんて思っていなかったが、奥さんのお父さんが高知で、肉も魚も美味しいし、これはいいとこだなあと、店を開くことを決めたのだという。

この取材で、何人ものIターンをして料理店を始められている方の話を聞いたが、皆さん「肉も魚も野菜も果物も米も美味しかったから」という理由を述べられる。

唐津さんもそんな高知の魅力にはまったのである。

さて、それでは料理をいただこう。

マグロ赤身の刺身は鉄分の香りがし、低温調理したという「鶏レバーの刺身」は、刺身というよりレバーのムースのような食感と味わいで、ワインが恋しくなる。

続いて出されたロール寿司も独自の味付けで、日本酒よりもワインが欲しくなる味わいである。

イカとバジル、カニカマとアボカド、金美人参、紅菜苔(こうさいたい)を酢飯の中心に入れ、赤牛のローストビーフで巻いた寿司も、多種の野菜が入手できる高知ならではのロール寿司だろう。

ワインとやったら、思った通りに楽しかった。

 

さあ、ここでいよいよ四川料理の時間である。

麻婆豆腐が芯まで熱々なのがいい。

なんといっても、痺れの麻と辛味の辣のメリハリがあって、香りが高い。

さらに四川風餃子である「紅油餃子」は、皮に優しさがあって、紅油は、甘みと辛味と痺れのバランスが見事である。

西山製麺の麺を使っているという「坦々麺」は、混ぜれば混ぜるほどに香ばしく、香りが変化していく。

東京の四川料理店でも、なかなかこのレベルはない。

「辣油と紅油は自家製ですか?」と聞くと、よくぞ聞いてくれましたと、自家製の辣油と紅油を見せてくれた。

辛いだろうに、どこか甘い香りも漂う、香ばしさに目を細めたくなる素晴らしい油である。

「唐辛子の湿り具合で温度を調整します。これを作るんで、朝5時から深夜2時まで休みなしです。大変だけど休んだら負け」と言いながら、どこか嬉しそうである。

こんなことを言うと高知の人には失礼だと思うが、本格的四川料理がない高知では、この辣油と紅油の質の高さを理解する人は少ないだろう。

それでも妥協など1ミリも考えず、職人として自分が生きる道を全うする。

愛すべき変態である。

さらに和食と中華、「二足のわらじでやるの大変なんです」と、言いながらもやめる気配はない。

高知は、変態職人を魅了するところなのか?

だとしたら、素晴らしい土地である。

 

高知県高知市追手筋1丁目「ダヨシ・スシバー」にて