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食べる人の顔を思い その人の好きなものを作る 女将の人生の味「龍の膳」 美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

この情報は2021年12月26日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は、高知の日本料理屋「龍の膳」の女将、ゆみ姉が繰り出す高知の田舎料理の数々をいただいてきました。

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高知の日本料理屋「龍の膳」の女将、ゆみ姉のお惣菜は、止まることを知らない。

【前回記事】酒もご飯も止まらない!女将が繰り出す土佐の田舎料理の数々「龍の膳」

本当に「笑うくらい作ったき」と言う言葉の通り、次々と惣菜を運んで来る。

しかもどの料理も優しい。

一口食べるたびに、心が震える。

なんと味が丸いのだろう。

割烹のように、すましていない。

だからといって、惣菜としての野暮があるわけでもない。

リュウキュウも、四方竹もチャーテも、虎杖(イタドリ)も大根葉も、茎芋もニンジンの葉も、肩ひじを張らずに、野菜に敬意をはらった味が、静かに染み入っている。

そこには、味の薄さや濃さではない、食材と食べる人の姿を想い計った味つけがあった。

次は、「四方竹の煮物」である。

四方竹は高知の秋に欠かせない食材で、細く小さい、中国南部原産の多年生常緑竹である。

明治10年ごろ高知に入り、栽培され、今では高知名物になっている。

切り口が四角形に見えることからこの名前がついた。

これは鰹出汁をベースにして味付けし、つゆごと冷凍したものだという。

しみじみと噛み締め、しみじみと美味しさを体に取り込む。

次も渋いぞ。

「たいもと昆布と椎茸人参の焚き合わせ」である。

たいも、つまり里芋との炊き合わせだが、これも味がこれ以上でも以下でもない、程よい穏やかな味付けである。

続いて「芋茎煮」が運ばれた。

芋の茎をお湯で戻して一晩寝かす。

芋の茎、ずいきは、もみ洗いしてから水につけて、アクの感じを見て、蒟蒻と椎茸と炊いたものだという。

こういうどこにでもある食材が、ご馳走になる。

これは一つの奇跡ではないか。

お次の緑と黄色が映える惣菜は、「リュウキュウ煮付けの卵とじ」である。

リュウキュウとはハスイモのことで、高知の人は頻繁に食べる。

どの居酒屋に行っても、割烹に行ってもメニューに載っている。

リュウキュウを鰹出汁でしっかりと煮付け、胡麻油いれて最後に卵とじしたものだという。

味の淡いリュウキュウに出汁がしみて、卵の甘みと響きあう。

ああこれでご飯をいっぱい食べたいなあ。

おっと、もっと渋い料理が出てきたぞ。

「古漬けの炒め煮」である。

大根の古漬けがベッコウ色に輝いて、手招きしている。

古漬けを水にさらして、どぶくささを抜いてから、唐辛子と昆布と炒め煮にしたものだという。

シャキシャキッ。

噛んだ瞬間、小気味いい音が響く。

練れた旨味がある古漬けに、油のコクやら昆布の旨味やら唐辛子の辛味やらが加わって、もうこれは止まりません。

にくいなあ。

今度はあっさりと、「アジとりリュウキュウの酢の物」ときた。

リュウキュウの緑にスマキという高知の練り物の桃色が映えて可愛らしい。

ほのかな甘みが効いて、そこに新生姜をすりおろしているのだろう。

新生姜の香りと柔らかい刺激がアジを生かしている。

その生姜を使った天ぷらが出された。

思ったほど辛くない。

何と言っても噛んだ時の、香りが素晴らしい。

「今日は天ぷらにしたけど、ほんとは春になると伸びてくる生姜の根っこを、洗っておいて炒めるの。おいしいよ。まあ今は売ってないし、お百姓さんしか作らない料理だけどね」。

そういって生姜の根っこを見せてくれた。

白い細ごぼう、もしくははじかみの白いものといった感じで、みずみずしい。

おっと魚料理も出てきたぞ。

「沖うるめと田舎豆腐の煮付け」。

ああ、これはまいったなあ。

沖うるめの優しい身の甘みと豆腐の甘みが同期して、なんとも穏やかな気分になる。

「今日はやんなかったけど、カチリの雑魚を胡麻油と塩で炒めて、フライパンから外してから、ネギ混ぜるのもおいしいよ」。

「ああ、次回はそれもお願いします」。

そして香りが生き生きとした「人参の葉の天ぷら」ときて、

ゆみ姉のスペシャリテ「らっきょう炒飯」が運ばれた。

らっきょうの入った炒飯は初めてである。

一口食べて笑った。これは危険、とてつもなく危険。

甘酸っぱい味が米と出会って、後を引く。

スプーンを口に運ぶ手が加速して、おーい!誰か止めてくれい。

胡椒の量もほどよく、これはお腹いっぱいでも止まらない。

これはゆみ姉の歩んできた道が生んだ、味わいなのだろうか。

きっと、食べる人の顔を思い、その人の好きなもの作ってあげることを、常に心がけてきたのだろう。

それが料理に一番欠かしてはいけないものだと、心に刻んできたのだろう。

ゆみ姉が言葉に出さなくとも、伝わってくる味、ゆみ姉の人生の味である。

人生の味は、かくも優しく、温かく、たくましい。

高知県高知市帯屋町1丁目「龍の膳」にて

 

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