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店主こだわりの日本酒に寄り添い引き立てる肴の数々 燗酒の店「サケとサカナ ヒナタ」 美食おじさんマッキー牧元の高知満腹日記

この情報は2022年1月23日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹にとんかつ、フレンチにエスニック、そしてスイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす「美食おじさん」ことフードジャーナリストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する高知家の〇〇の人気連載記事「高知満腹日記」。今回は、店主こだわりの日本酒にオリジナリティあふれる肴がいただける燗酒の店「サケとサカナ ヒナタ」を訪ねてきました。

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高知市内から少し外れた住宅街に夜のとばりが落ちる頃、一軒の店に明かりが灯る。

一人二人と、お客さんが入っていく。

燗酒の店「サケとサカナ ヒナタ」である。

 

さあ、今夜は何を飲もうか。

カウンターに座り、日本酒の銘柄を眺めながら悩む。

扶桑鶴、高津川、開春、玉櫻、旭日、竹鶴、和の月、日置桜、冨玲、辨天娘。

酒好きなら、このラインナップを見ただけで悶えるだろう。

いわゆるスター的存在を一切置いていないところがいい。

米の旨みを醸した、濃い酒ばかりである。

その中からまずは、奈良の酔龍の純米を選んだ。

燗をつけている間に、突き出しが出された。

肴の盛り合わせである。

鰹の煮物、きゅうりのミントとオリーブ油和え、茄子煮、虎杖(いたどり)とクミンスルメイカ煮込み、煎りどうふ、親鳥ミンチと青山椒といしる風味、鞍掛豆煮、キノコとカリフラワーのなめ茸ソース、ズッキーニとホタルイカ麹味付け。

突き出しからしていい。

どれも酒を呼ぶ味で、個性がありながら、やりすぎてないのが素晴らしい。

突き出しがおざなりな店が多い中、突き出しとは店主と客との最初の挨拶であるということをわきまえた料理である。

さあ、お燗酒がきた。

ほのかに黄色がかった酒を飲む。

ふくよかな旨味が広がり、優しい酸が流れる。

しかしその旨味は、口にとどまることなくキリリと切れていく。

いい酒である。申し分なき燗の温度である。

心が和らぐ。

温泉に入った時のように、体と心がゆっくりとほぐれていく。

肴は何にしようか。

かます炙り、柿フライ醤油麹漬け、揚げジャガと炙りシメサバのじゃの風、カツオとアボカドの海苔ワサビあえ、ものすごいサバ焼。

黒板に手書きされた20数種の料理は、どれも他にはない個性に輝いて、そそられる。

まずは「変わりやっこ」といったみた。

やっこの上には干しエビとネギが乗せられ、熱い油をかけているため、香り高く、エビはカリカリである。

そのエビの食感と柔らかい豆腐の対比よく、思わずにやけてしまう。

次は「17日熟成 カジキ漬け」といってみた。

熟成カジキの旨味が色っぽい。

そこへ睡竜を流し込めば、カジキの香りをそっと膨らまし、益々色気が増す。

ううむ、たまらないなあ。

酒は次に、鳥取の酒「応援之酒 冨玲に変えた。

しっかりとした飲み口で米本来の甘みがあり、雑味のない綺麗な酒である。

店主の酒選びが素晴らしい。

旨味のある酒を飲みながら、豊かな時間を過ごしてほしい。

そんな思いが込められている。

肴は続いて「モーウィと四万十豚のバラ肉、キムチ古漬けのしじみ出汁煮込み」を頼んでみた。

キムチ古漬けの練れた酸味とシジミの旨味が、豚とモーウィ(赤瓜)の甘みを穏やかに包み込む。

憎い味付けである。酒が進んで困る味付けである。

店主が燗酒をつけるのを見ていると、温度を測っていない。

香りを嗅いで燗具合を決めている。

それぞれの酒には個性があり、生きている。

開封したての酒と、開けてからしばらく置いた酒は違う。

店主の西森 聡さんに聞けば「嗅いでいき、嫌な匂いが消えた時に引き上げます」という。

これを聞いちゃ、もう一本頼まざるを得ないじゃないか。

島根の「天隠 山廃」を頼んでみた。

丸い酸味に包まれた旨味がいい。

これもまた温泉気分を運んでくる。

フライにした柿の甘みに驚く、「柿フライ醤油麹漬け」、

カルダモン、参照、八角。酒と醤油と砂糖、出汁で煮込んだという「落花生スパイス煮」も頼んでみた。

どちらも一見奇抜なようだが、日本酒に寄り添うまろやかさがあり、日本酒と飲むと風味が引き立つ肴という点が心憎い。

「すいませんもう一本つけてください。今度は旭日を」。

あぁ、夜が緩やかになってきた。

高知県上町1丁目「サケとサカナ ヒナタ」にて