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高知家の◯◯
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高知は隠れたうどん県だった 第三弾「理想を求め続けるうどんは、音楽に通じていたの巻」食べ歩きスト・マッキー牧元の高知満腹日記 その78

この情報は2019年12月1日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

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窓の外はのどかな田園風景が広がっている。

鳥の声が響き、涼やかな風が吹き込んでくる。

こんな風景を眺めながら食べるうどんは、幸せだなあ。

やがて「繁じ(はんじ)」の釜玉うどんが運ばれて来た。

うどんを混ぜようとして箸で持ち上げると、うどんが伸びた。

ビヨヨーン。

弾力がある。「さあ食べて」と、うどんが自信満々に語りかける。

卵をからめ、からめ、よくよく混ぜるとさらに艶が出て輝き、喉がゴクリとなった。

再び箸でうどんを掴み持ち上げると、また伸びる。

ビヨヨーン。

この伸びがいい。

うどんがコシを誇っている。食べれば、もっちり、もちもちと歯を弾ませる。実に痛快である。

噛むほどに小麦のほのかな甘さがにじみ出て、卵の甘みと混ざり合っていく。

うどんに根性があり、20回ほど噛んで、ようやく喉元に落ちる。

しかし、讃岐うどんのコシとは違う。

あちらはもっとたくましく、楽観を緩さぬ頑迷さがあるが、こちらのうどんは、コシの芯に「出会えてよかったね」と言われているような、優しさがある。

次にこの店の一番人気だという、冷たい、とり天ざるうどんが運ばれた。

ビヨヨーン。

これまた伸びる。

熱々のとり天をかじり、冷たいうどんを噛む。その対比が楽しい。

冷たいうどんは、さらに奥歯で噛み締めさせ、喉に落ちた後に、ほのかに甘い、小麦粉の風が吹き抜ける。

ああ。いいうどんだなあ。

こうして250gはあるうどんは、瞬く間になくなっていく。

この土地出身の店主・伊藤勝也さんは、東京でバンドをやっていたという。担当はドラムだった。

高知に帰り、うどん屋を始めようと思い立ったが、料理経験はなく、ネギを切ることすらできなかったという。

やがて「国虎屋」で修行して、香川も食べ歩き、2016年5月にこの店を始められた。

店名は、祖父・繁二さんからとった。

うどんの素晴らしさを褒めると、「ありがとうございます」と、恥ずかしそうに照れ笑いをされながら、言った。

「毎日毎日反省しています。喉越し、粘り、伸び、香り、甘み。まだまだ理想には近づいていません」

日々の仕事を点検しながら、現状に決して満足せず、理想を目指す。

いい料理人、優れた職人に共通する資質、姿勢である。

「うどんは音楽と似ていますか?ドラムと比べると、どうですか?」と尋ねると

「表打ちだけではなく、リズムの頭を裏打ちもしてやるといい時もあります」と笑われた。

鳥が好きだという伊藤さんの想いが通じたのか、一番人気が「とり天ざる」で、通常メニューの他には、トムヤムクンうどんなどをやる時もあるという。

「伊藤さんにとってうどんは、なんですか?」と、聞いてみた。

「うどんは、自分のモチベーションを上げるものです」。

即座に答えた目が輝いている。

こうして伊藤さんは、高知で、生まれ育った愛する土佐町で、今日もドラムの代わりにうどんを打つ。

高知県土佐郡土佐町田井「うどん処 繁じ」にて