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「食材にカーブをかける、愛すべき変態の作る料理で、知的好奇心を満たせの巻」食べ歩きスト、マッキー牧元の高知満腹日記 その98

この情報は2020年5月3日時点の情報となります。

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。今回は高知市追手筋に店をかまえ、燻製料理を提供する「土佐燻製厨房 EN」を訪ねた。

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「燻製とは、食材にカーブをかけることだと思います」。

「土佐燻製厨房  EN」のご主人は、そう言われた。

言い得て妙である。

それでは早速、そのカーブを受けてみようではないか。

第1球は、「温奴 クリームチーズ  野菜」である。

かまぼこは、普段我々が知っているかまぼこそのものであるが、どこかに旅をしている。

そうチベットに行って、定住したかまぼこといった風で、どこかアジアの秘境感が漂って、面白い。

グラナバダーノチーズは、特有の旨みの後から燻製香がやってくる。

そしてフルーツトマトのおひたしときた。

これも燻製である。

トマトの新鮮な甘味がありながら、燻製香があることによってひねたような、熟成させたような時間を感じさせる。

つまり、フレッシュなのに古い感じがするという不思議である。

第二球は、「玉子焼き」が投げられた。

ううむ。これも舌と鼻が混乱している。

普通の玉子焼きの優しい甘みの中から、じわじわと猛々しい燻製香が漂うのである。

つまり、二律背反が馴染んで成り立っているのである。

第3球は、「自家製ベーコン焼きポテトサラダ」が来た。

燻製はベーコンだけでない、上に燻製チーズ焼きが乗っている。

その燻製香が、芋の甘みを引き立てて、笑いたくなるほど美味しい。

燻製とマヨネーズのバランスもよく、何を隠そう(隠さなくても誰も知らないが)ポテトサラダ学会会長の私としては、金賞を差し上げたい。

第四球は、パスタである。

耳を疑った。パスタ自体を燻製にしているのだろうか。

生パスタのジェノベーゼソース(バジリコを使ったヴェネト州の伝統料理)である。

噛み締めれば噛みしめるほど燻製香が広がるので、生麺を燻製していると見た。

一筋縄でいかないジェノベーゼといった感があり、味わいが一段と深くなる。

「どうして燻製の店を始めたんですか」と聞けば、

「はい、子供の頃から好きだったんです。そのうち自宅の庭で燻製していました。独学です」と、ご主人は嬉しそうに答える。

立派な変態である。愛すべき変態である。

その基本であるベーコンを第5球目に食べた。

生コショウが添えられた自家製ベーコンは、なんとも肉肉しく、燻製香が凛々しい。

たくましいだけではない、豚の甘みが生きているベーコンである。

燻製にしてなお、豚の甘みを際立たせるのだから、只者ではない。

それがさらに発揮されたのが、第6球、最終の球である。

いきなりご主人が言う。

「私、ハンターもやっていて、ジビエに力入れてるんです」。

また変態の匂いぷんぷんの発言である。

そう聞いたら、鹿だろう。

「肉がパサパサにならないように、ちょうどいい火入れで冷燻にかけました」と言う大豊産鹿のロース肉は、しっとりして、噛むほどに鉄分が湧き出る。

その血の味わいに、甘酸っぱい和風ソースがよく合う。

そして燻製香が、鹿の野趣を膨らます。

「食材の味にカーブをかける」は、名言である。

食べる方も、そのカーブのかかり方がどうなのか?

普段食べているものとの感じ方の違いは?

と、探りながら味わいを楽しむ。

そう。

燻製料理とは、食欲ともに、知的好奇心がくすぐられる世界なのであった。

 

高知県高知市追手筋1丁目「土佐燻製厨房 EN」にて