「気品の中に野生あり。“はちきん”のようなウツボの刺身に魅了されるの巻」マッキー牧元の高知満腹日記 その63

アンジャッシュ渡部さんの「食べ歩き道の師匠」、マッキー牧元さん。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ、テレビ出演を超多忙にこなす食べ歩きストのマッキー牧元さんが高知の食材・生産者さんをめぐって紹介する「高知満腹日記」。

君はウツボの刺身を食べたことがあるか?

と、上段に構えてみたが、実は僕もはじめてである。

仲間のハモや穴子の刺身はあるが、ウツボはない。

なにしろこいつは、不気味である。

エイリアンの口の中から出てくる、鋭い口に似た顔かたちをしていて、全身ホラーである。

性格も凶暴で、岩場の空洞(関西では空洞のことをウツボラといい、それが源となったという説がある)に身を隠し、タコやら小魚を捕獲して食べる。

鯛などもそうで、そういう旺盛な食欲を持っている魚というのは、得てしてうまい。

ではなぜ刺身が、一般的ではないのだろう?

高知に来ても、唐揚げしかなく、一部、久礼に、すき焼きという文化があるだけである。

今回その理由を初めて知った。

クエなどと同じように長生きだから、加齢臭というか、臭いのだという。

生きたままでも臭く、すぐに食べても匂いがあるというほどらしい。

しかし人間の執念は、すさまじい。

これをなんとか刺身で食えないかと考えた人がいたのである。

おろした身を紙で包み、毎日紙を変えながら5日間寝かすのだという。

これによって、余分な水分が抜け、臭みも同時に弱まるのだろう

臭みが取れたからといっても安心してはいけない。

刺身にする捌き方も、極めて困難である。

なにしろ骨が硬い。

小骨がある。

背骨とヒレが離れている。

などと、他の魚にはない個性があるので、コツがいる。

さばいてくれたのは、「うつぼ料理研究所」を主宰されている、町戸太である。

ちなみに高知では、あらかじめ予約をしておくと町戸さんが関わられた「酔夜」と「かとう」という店で食べられるらしい。

包丁を入れて、身を起こすように切っていく。

素人目にも、難儀さがわかる。

だが町戸さんは、鮮やかな手つきで、刺身にされた。

薄造りにされたウツボは、見た目はフグである。

半透明の白き身が美しい。

ポン酢につけて食べてみる。

シコシコシコシコ。

強靭な体が歯の間で爆ぜる。

噛み込んで行くと、うっすらと甘みが滲み出る。

こりゃあうまいやと思った瞬間である。

獣のような、一筋縄ではいかない香りがかすかに漂った。

その品をも感じる甘みと、香りとのギャップがたまらない。

品のある顔立ちした高知の女性が、時折見せる気の強さにも似て、惚れてしまう。

その後出していただいた「煮こごり」も、葉にんにくソースを添えた「湯引き」も同様である。

 

品の中にしたたかさがある。

「なめたらいかんぜよ」。

そう、噛むごとに、言われるのである。

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